はじめに
心不全で仕事を休まざるを得ないとき、収入がなくなる不安はとても大きな問題です。
そんなときに活用できるのが、健康保険の制度である 「傷病手当金」。
条件を満たせば、最長1年6か月、生活費の一部を保障してもらえます。
この記事では、心不全患者さんとご家族に向けて、制度の意味・受給条件・金額の目安・申請の流れを、理学療法士としての臨床経験も交えながら解説します。
傷病手当金とは?心不全患者にとっての意味
制度の概要
傷病手当金は、業務外の病気やケガで働けなくなったときに健康保険から支給される生活保障です。
協会けんぽでは「労務不能と認められる間、標準報酬日額の3分の2に相当する額が支給される」と定めています。
僕も臨床現場で、心不全による長期入院や療養で収入が減り、不安を抱える方を数多く見てきました。
その中で「傷病手当金があったから安心して治療に専念できた」という声を耳にすることもあります。
心不全で傷病手当金を受け取れる条件
傷病手当金を受け取るには、以下の条件をすべて満たす必要があります(協会けんぽ「支給要件」より)。
勤務先の健康保険に加入していること
会社員や公務員など、勤務先の健康保険に加入している方が対象です。
一方で、自営業や国民健康保険加入者は原則対象外となります。
心不全のために労務不能であること(医師の証明が必須)
ここでいう「労務不能」とは、仕事を続けられない状態を指します。
医師の診断書や意見書で証明する必要があります。
臨床では「少し歩いただけで強い息切れが出る」「階段の昇降が困難」といった状態で休職に至る方が多いです。
連続して3日間休業し、4日目以降も就労不能であること
支給開始には「待期3日」という仕組みがあります。
これは連続して3日間休業した後、4日目から支給対象となるというルールです。
休日も含まれるため、金曜から休むと月曜で要件を満たすことができます。
給与の支払いがない、または減額されていること
給与が全額支給されている場合は対象外です。
給与が一部支給されている場合は、その差額分が支給されます。
👉 ポイント:「症状が安定せず仕事が続けにくい場合、ご家族と一緒に勤務先や主治医に早めに相談しましょう。」
傷病手当金の金額はいくら?
計算方法
受給額は 標準報酬日額 × 3分の2(2/3) で計算されます。
標準報酬日額とは、健康保険で定められた給与の基準額を日割りにしたものです。
一般的には「月収を30日で割った額」で目安を出せます。
受給額の目安
- 月収30万円 → 約20万円
- 月収20万円 → 約13万円
(実際の金額は、加入している健康保険組合の基準に基づきます)
傷病手当金はいつまで受け取れる?支給期間と注意点
最長1年6か月
支給期間は 最長1年6か月 です。
心不全のように慢性心不全として増悪と改善を繰り返す病気にとって、大きな支えになります。
同じ病気なら通算でカウント
一度復職しても、同じ病気で再び休職した場合は、前回の支給期間と通算されます。
新たに1年6か月にリセットされるわけではありません。
再発・再入院時の扱い
慢性心不全は再発や再入院を繰り返すことがあります。
その場合も、支給期間は「最初の1年6か月」に含まれる点に注意が必要です。
心不全患者の傷病手当金申請方法|必要書類と手続きの流れ
必要書類
- 健康保険組合・協会けんぽの申請用紙
- 医師の意見書(診断書)
- 勤務先の証明(事業主記入欄)
医師の意見書をもらうときのポイント
症状をできるだけ具体的に伝えることが大切です。
僕の経験では、ご家族が同席して補足説明をすることで、医師がより正確に状況を記載しやすくなるケースもあります。
勤務先の証明
申請書には勤務先の事業主が記入する欄があります。
「会社に知られたくない」と不安に思う方もいますが、申請には不可欠な手続きです。
提出先と審査の流れ
申請書類を健康保険組合に提出 → 審査 → 支給決定
不備があると支給が遅れるため、余裕を持って準備しましょう。
傷病手当金と併用できる制度
- 高額療養費制度:医療費の自己負担を軽減する制度
- 障害年金:長期にわたり働くことが難しい場合に対象となる可能性あり
- 介護保険(40歳以上):心不全で生活機能が低下した場合に利用可能
まとめ|傷病手当金を活用して心不全と生活を両立
- 傷病手当金は 心不全で休職したときの大切な生活保障
- 条件:勤務先の健康保険加入・労務不能・待期3日・給与減額
- 金額:標準報酬日額の2/3(例:月収30万円 → 約20万円)
- 期間:最長1年6か月(同じ病気なら通算)
- 申請:医師の意見書・勤務先の証明が必要
👉 まずは勤務先や健康保険組合に相談することから始めましょう。
ご家族と一緒に準備を進めることで、安心して治療に専念できる環境が整います。
参考文献・出典
- 全国健康保険協会(協会けんぽ):傷病手当金の概要・支給要件・申請方法
- 厚生労働省:標準報酬月額・標準報酬日額に関する資料
- 日本年金機構:障害年金制度の概要
- 厚生労働省:高額療養費制度について


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