心不全リハビリでやってはいけない運動と注意点【理学療法士が解説】

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はじめに

前回の記事で「心不全患者さんでも安全にできる運動」について解説しました。
しかし一方で、心不全の方にとって 避けた方がよい運動 も存在します。

運動は正しく行えば再入院予防や生活の質の改善につながりますが、やり方を誤ると症状悪化や ケガにつながる可能性もあります。

この記事では、患者さんとご家族に向けて 「心不全の方がやってはいけない運動」 と、運動時の注意点・セルフ管理のポイントをわかりやすく解説します。


運動前後にはウォーミングアップとクーリングダウンを!!

やってはいけない運動の前にウォーミングアップとクーリングダウンの重要性について解説します。

ウォーミングアップの効果とやり方

なぜ、運動前にウォーミングアップをしないといけないのかというと…

  • ケガの予防効果がある
  • 心臓にかかる負荷を緩やかにすることができる
  • 不整脈を予防することができる

などの効果が期待できます。

運動を開始すると筋肉は酸素を必要とします。しかし、心臓が運動にたいしての準備ができていない状態では、強いにストレスがかかるため、急激な血圧上昇や不整脈の発生に繋がります。

ウォーミングアップとは、身体を安静状態から運動へ移行させる準備段階と位置づけられており、  運動の前に心臓と筋肉の準備を整えることでケガや心不全の予防にも繋がります。

ウォーミングアップには、ストレッチや軽めの体操がオススメです。              だいたい10〜15分を目安にしっかり体を動かしましょう。

クーリングダウンの効果とやり方

続いて運動後のクーリングダウンについてもお話します。

クーリングダウンの効果としては..

  • 急激な血圧低下の予防
  • 運動による疲労の回復が早くなる

などの効果が期待できます。

運動直後に座り込んで休憩することは心臓へ負荷がかかります。                    運動中の体内は、心臓と筋肉の働きで全身へ血液を送っています。しかし、急に運動をやめてしまうと筋肉の活動もなくなってしまうため、 血流が滞ってしまい、心臓に戻る血流が一時的に減少してしまいます。これによって急激な血圧低下が起こったり、血圧が低下することで冷や汗、気分不良や場合によっては失神することもあります。

クーリングダウンとは、運動後の身体の興奮状態を徐々に静める調整段階と位置づけられており、運動後におこなうことで体調の悪化や運動による疲労回復に繋がります。

クーリングダウンは、直前までしていた運動の負荷を軽くして、2〜3分ほどおこなってください。ストレッチなどを合わせておこなうこともオススメです。

心不全でやってはいけない運動(NG運動5つ)

強すぎる運動(全力運動・息が上がる運動)

  • マラソン、激しいジョギング、ダッシュ
  • 息が苦しく会話ができないほどの強度

心臓に過度の負担をかけ、症状悪化のリスクがあります。


息を止める運動(いきみ動作)

  • 重い荷物の持ち上げ(ベッドや家具の移動など)
  • 腹筋・腕立て伏せなどで呼吸を止めてしまいやすい動作

息を止めると血圧が急上昇し、心臓に強い負担がかかります。


高負荷の筋トレや無酸素運動

  • 重量を扱う筋トレ
  • 激しい短時間の負荷トレーニング

心不全の方は「軽い有酸素運動+低強度筋トレ」が基本。高負荷トレーニングは避けましょう。


長時間続ける運動

  • 長時間歩き続ける
  • 疲れていても休まずに運動を続ける

休憩をはさまずに続けると、心臓に持続的な負担がかかります。


極端な環境での運動

  • 真夏の炎天下、真冬の寒冷下での運動
  • 湿度が高い環境や入浴直後の運動

体温や血圧が変動しやすく、心不全の悪化を招きます。


運動時の注意点とセルフチェックの方法

運動前・中・後に注意点をまとめたチャックリスを末尾に作成しています😄

運動前後に確認すべき体調(特に体重・血圧・脈拍)

  • 運動前後に 体重・血圧・脈拍 を測定。                              ※測定は安静にて5分経過してから測ってください。                         < 血圧 >                                           ➡️安静時の血圧が160/100mmHg以上なら、その日は強度を落として散歩程度まで。                 ➡️安静時の血圧が180/110mmHg以上なら、その日の運動は中止し、休養してください。                   < 脈拍 >                                              ➡️安静時の脈拍が40回/分以下または120回/分以上なら、運動は控えてください。             < 体重 >                                      ➡️1週間で体重が2kg以上の増加をしているなら、体に水分が貯まっているサインなので運動控えて病院を受診することをお勧めします。
  • 安静時に息切れ、動悸、胸痛がある。
  • 強い痛み、めまい、吐き気、冷や汗、発熱(38℃)がある。
  • 普段と比べて体調に違和感を感じる。

上の項目にひとつでも当てはまれば運動を控えるか主治医へ一度ご相談ください。 

セルフチャックのコツ:可能な限り毎日同じ条件(時間帯など)で測定した体重・血圧・脈拍をメモしてください。体調の“普段”を見える化すると判断が安定します。


安全な運動強度の目安(会話ができる程度)

基本的には『少し息が上がるけど、会話はできるの運動を10〜30分程度がオススメです。

心不全の方の運動は頑張ったら頑張った分良いというわけではありません。どんな人にも体調にはムラがありますし、頑張りすぎて体調を崩しては元も子もありません。

何よりも大切なことは、運動自体は軽くても良いから長期間継続していくことです。


運動を中止すべきサイン(胸の痛み・急な体重増加など)

  • 運動中の血圧が著しく上昇している。                                 → 具体的には収縮期血圧:40mmHgまたは拡張期血圧:20mmHg以上の上昇。                                  例) 運動前:140/70mmHg → 運動中180/90mmHg以上。
  • 運動中の脈拍数が140回/分以上。または脈が不規則となる回数が10回/分以上。
  • 強い息苦しさがあったり、会話ができないほどの息切れ、動悸、胸痛、ふらつきの増悪がある。
  • パルスオキシメーターを所持している場合は、SpO2が90%以下になる。                ※SpO2:酸素の数値、指先に測定器をつけて測れる

このような症状が出たら、すぐに運動を中止して安静にしてください。必要に応じて医師に相談してください。


心不全患者の運動を支えるご家族のサポート

  • 運動中に異常がないか見守る
  • 血圧や脈拍測定を手伝う
  • 「疲れたら休んで大丈夫」と声をかける
  • 日々の体重や症状を一緒に記録する

家族のサポートがあると患者さんも安心して運動を続けられます。


まとめ

心不全リハビリでは「やってはいけない運動」を避けることが、安全に継続する第一歩です。

  • 強すぎる運動や息を止める運動は避ける
  • 無理をせず、体調に合わせて運動する
  • 体重・血圧・症状をセルフチェックしながら行う

患者さんとご家族が協力してセルフ管理を行うことで、再入院を防ぎ、安心して生活を続けることができます。

ここで示した閾値は一般的な安全目安です。内服しているお薬やデバイス植込みなど   医師から個別指示がある場合は必ずそちらを優先してください。


チェックリスト(運動前・中・後)

🟢 運動前チェックリスト

確認項目OKの目安中止/相談の目安
血圧160/100mmHg未満180/110mmHg以上は中止
脈拍40〜120回/分の範囲40以下または120以上は中止
体重1週間で+2kg未満1週間で+2kg以上は要注意
症状息切れ・胸痛なし息切れ、胸痛、発熱、むくみ増悪がある日は中止

🟡 運動中チェックリスト

確認項目続行OK中止のサイン
会話の余裕会話ができる程度会話ができないほど息切れ
胸部症状痛みや圧迫感なし胸痛・動悸・冷や汗・ふらつき
脈拍リズム安定急な不整脈、脈拍140回/分以上
酸素飽和度(SpO₂)90%以上90%未満または4%以上の低下

🔵 運動後チェックリスト

確認項目OKの目安注意が必要な場合
クーリングダウン2〜3分の軽運動+ストレッチ実施運動後すぐに座り込む・休む
体調疲労は軽く回復する強い息切れ・胸痛・めまいが続く
翌日の体調いつも通り活動できる強い疲労が翌日まで残る

使い方のコツ

  • 運動を始める前に 「運動前チェックリスト」 を確認
  • 運動中は 「会話できるか」 を目安にする
  • 終了後は 「クーリングダウン」 を忘れずに
  • 家族と一緒に記録をつけると安心感が増します

参考文献

  • 内 昌之,高橋 哲也(編).「なぜ」から導く循環器疾患のリハビリテーション-急性期から在宅まで.金原出版,2015.
  • 日本循環器学会・日本心不全学会.2025年改訂版 心不全治療ガイドライン.2025.
  • Piepoli MF, et al. Exercise training in heart failure: from theory to practice. Eur J Heart Fail. 2011;13(4):347–357.
  • American Heart Association. Living with Heart Failure: Self Care. 2022.        
  • 厚生労働省.身体活動・運動を安全に行うためのポイント.2023.

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