はじめに
心不全は「入院と退院を繰り返しやすい病気」と言われています。
その背景には、心臓の機能低下だけでなく、体力や筋力の低下=フレイルやサルコペニアと深く関わりがあり、特に高齢者に起こりやすいとされています。
この記事では、患者さんとご家族に向けて
- フレイルやサルコペニアがなぜ心不全と関係するのか
- 入退院リスクや生活の質にどんな影響があるのか
- 自宅でできるセルフチェック方法
をわかりやすく解説します。
フレイルとは?
フレイルとは、筋力や内臓の働き、免疫などの生きていくために必要な機能が加齢によって低下し、ストレスに弱くなった状態です。
「介護が必要になる手前の段階」ともいわれますが、早めの対処によっては回復することも期待できます。
特に心不全患者さんでは、息切れや疲れやすさによって活動量が減少しやすいため、フレイルのリスクが非常に高くなります。
サルコペニアとは?
サルコペニアとは、筋力や筋肉量が低下することで転倒や寝たきりになりやすい状態です。
握力の低下や歩行速度の低下で気づかれることが多く、高齢者の心不全患者さんの約2〜3割に合併すると報告されています。
サルコペニアがあると…
- 動くとすぐ疲れる
- 転倒しやすくなる
- 入院後の回復が遅れる
といった問題が起こり、心不全の予後(その後の経過)にも悪影響を及ぼします。
なぜ心不全でフレイル・サルコペニアが起きやすいのか?
心不全があると、次のような要因でフレイル・サルコペニアが進行しやすくなります。
- 循環不全:全身への血流が減り、筋肉や腸の働きが低下
- 活動量の低下:息切れや疲労感で運動量が減り、筋力が落ちる
- 栄養障害:腸のむくみや食欲低下で栄養不足になり、筋肉量が減る
- 慢性炎症やホルモン変化:筋肉が分解されやすく、サルコペニアが進む
このように、心不全は「筋肉や体力を弱らせやすい病気」であり、特に高齢者ではフレイル・サルコペニアが進みやすい状態にあるのです。
フレイル・サルコペニアが心不全に与える影響
研究では、フレイルやサルコペニアを合併した心不全患者さんは
- 再入院率が高い
- 死亡率が上がる
- 日常生活の自立度が下がる
- 生活の質(QOL)が低下する
と報告されています。
つまり、心不全の治療とは心臓だけでなく「体の筋力や活力を守ること」も再入院を防ぐためには欠かせません。
自宅でできるセルフチェック
フレイルのチェック例
- 半年前と比べて体重が減ってきた
- 前より歩く速度が遅くなった
- 握力の低下(ペットボトルの蓋を開けにくい)
- 前よりも疲れやすい
- 運動習慣がない
➡️ 体重減少や疲労感の自覚があれば「フレイルの可能性あり」、3つ以上当てはまれば「フレイルの可能性が高い」とされます。
サルコペニアのチェック例
- 握力が弱い(男性28kg未満、女性18kg未満:ペットボトルの蓋を開けにくい)
- 椅子からの立ち上がりが難しい
- 歩行速度が遅い(0.8m/s未満=青信号で横断歩道を渡りきれない)
日常生活でできるフレイル予防・改善
- 適度な運動
- 「会話ができる程度の軽い運動」を毎日継続
- 散歩・室内体操・軽い筋トレが効果的 ※ 詳しくは関連記事:心不全患者さんのための安全な運動メニュー【理学療法士が解説】
2.栄養を意識した食事
- タンパク質(肉・魚・豆類・卵・乳製品)をしっかり摂取
- 減塩を意識しつつ、バランスよく栄養をとる ※腎臓が弱っている方は体に悪影響が出る可能性があるため、主治医に確認してください。
3.社会とのつながり
- 家族や友人との会話を増やす
- デイサービスや地域のサロンに参加する
4.睡眠・休養をしっかりとる
- 規則正しい生活リズムを意識
- 眠れないときは無理に横にならず、気分転換をする
ご家族ができるサポート
フレイルやサルコペニアへの対策は、家族の支えが大きな力になります。
- 食事の工夫:たんぱく質を含む献立を一緒に考える
※腎臓が弱っている方は必ず主治医に確認を。 - 運動の見守り:散歩や体操を一緒に行う
- 記録のサポート:体重・歩行距離・食事内容を簡単に記録
- 声かけ:「少し動けたね」とポジティブな言葉をかける
まとめ
心不全においては、心臓の病気そのものだけでなく、加齢に伴うフレイルやサルコペニアが再入院や生活の質に大きく影響することが分かっています。
- フレイルやサルコペニアは「予防・改善できる状態」
- 日常生活での体力維持や栄養管理がとても重要
- ご家族と一緒に取り組むことで継続しやすくなる
心不全と向き合ううえで、「心臓」と同じくらい「体全体の元気」を守る視点を持つことが大切です。
参考文献
- 日本循環器学会・日本心不全学会.2025年改訂版 心不全治療ガイドライン.2025.
- Cruz-Jentoft AJ, et al. Sarcopenia: revised European consensus (EWGSOP2). Age Ageing. 2019.
- Morley JE, et al. Frailty consensus: a call to action. J Am Med Dir Assoc. 2013.
- Nishikawa H, et al. Prevalence and outcomes of sarcopenia in heart failure: Systematic review and meta-analysis. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2021.
- Harris KM, et al. Psychological Stress in Heart Failure. Curr Heart Fail Rep. 2020.
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