心不全を予防する運動習慣とは?安全に続けるコツを解説【理学療法士が解説】

心不全予防シリーズ

はじめに

心不全の予防において「運動習慣」はとても重要です。
実際にWHOの研究でも、日常的に体を動かしている人は心不全の発症リスクが2〜3割低いと報告されています。
僕自身も臨床で「動けている方ほど再入院が少ない」と実感してきました。
今回は、誰でも始めやすく、安心して続けられる運動のポイントをお伝えします。


心不全予防に運動が効果的な理由

運動は心臓や血管の健康を守るために重要です。
息が弾むくらいの軽い運動をおこなうことで血流を改善し、高血圧・糖尿病・脂質異常(コレステロールや中性脂肪の異常)などの心不全の原因を防ぎます。
欧州の大規模研究では、定期的に運動を行う人は心不全の発症率が有意に低下することが明らかになっています。

僕が関わってきた患者さんでも、少しずつ歩く習慣を持った方は、入院生活から退院後も体調を安定させるケースが多く見られました。
ご家族の方も一緒に散歩に出かけると、継続しやすくおすすめです。


心不全を予防するためにおすすめの運動習慣

ウォーキングは心不全予防の基本

歩くことは誰でも簡単に始められる有酸素運動です。
1日20〜30分を目安に、会話ができるくらいのペースがちょうどよい強度です。
信号待ちや買い物の合間に足踏みをするだけでも効果があります。

軽い筋トレで筋肉量を維持

筋力低下は動く意欲を奪い、心不全リスクを高めます。
重たいダンベルやジム通いは不要です。自宅でできる椅子からの立ち上がり運動や軽いスクワットなどでも継続すれば十分効果があります。
僕の経験でも、入院前から筋トレをしていた方は回復が早いと感じます。

ストレッチで呼吸とリラックス効果を得る

ストレッチは血流改善や自律神経の安定に役立ち、睡眠の質の向上にもつながります。
就寝前にご家族と一緒に取り組むのもおすすめです。


運動強度の目安はどう決めればよいのか?

心不全を予防する運動強度は、一般的に (220−年齢)×40〜60% の心拍数が目安です。

例:60歳男性の場合                                                                                        上限:(220ー60歳)×60%=96回/分                                  下限:(220ー60歳)×40%=64回/分                                                               この男性の場合は、64〜96回/分の範囲で運動すると安全性が高いとされています。                                               


ただし「40%〜60%」と幅があるため、どのくらいで行えばいいのか迷う方も多いと思います。

  • 60%寄りがよい人
     健康診断で異常がなく、日頃から運動習慣があり、体力に自信がある方。
    健康志向があり、病気を予防するための運動に意欲がある方。
  • 40%に抑えた方が安全なケース
     心不全の診断を受けている方。
     高齢者や体調に不安があり、今まで運動習慣がなかった方。                     
     そういった方は、まずは40%程度で「無理なく続けること」を最優先にしましょう。

僕がリハビリの現場でよく伝えるのは、「会話ができるくらいがちょうどいい」という目安です。          反対に運動中に会話を続けることが大変そうだと感じれば、休憩を促し、自覚症状の確認を行います。

ご自身やご家族の状態に合わせて調整しながら、まずは安全に続けることを意識してください。

注意                                      不安な方は最初は40%くらいから始めましょう。無理がなければ、少しずつ60%へ近づけていくのが安心です。                 


運動を安全に続けるための工夫

小さく始めて習慣化する

「毎日10分歩く」から始めても十分です。
大切なのは続けることです。

体調をチェックしながら行う

体重・血圧・疲労感を記録してみましょう。
特に体重の急な増加は心不全悪化のサインになることがあります。目安としては2〜3日で2kg以上の体重増加は要注意です。

家族や仲間と一緒に行う

一人では続かない運動も、誰かと一緒なら楽しめます。
臨床でも「夫婦や友達と散歩を始めて習慣になった」という方が多くいます。


運動を控えた方がよいケース

強い息切れやむくみがあるときは無理をしてはいけません。
体を休めるように医師から言われている場合も控える必要があります。
不安があれば必ず主治医に相談してください。


まとめ

心不全予防には「安全で無理のない運動習慣」が欠かせません。
ウォーキングや軽い筋トレを、会話できるペースで続けることがポイントです。
ご家族と一緒に取り組むことで、楽しみながら未来の健康を守ることができます。


参考文献

  • 日本循環器学会・日本心不全学会.心不全治療ガイドライン(2025年改訂版).2025.
  • 厚生労働省.e-ヘルスネット「身体活動・運動」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp
  • WHO. Global recommendations on physical activity for health. Geneva: WHO; 2010.
  • Piepoli MF, et al. Exercise training in heart failure: from theory to practice. Eur J Heart Fail. 2011;13(4):347–357.

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