はじめに
心不全の予防や再発防止には、適切な運動習慣が欠かせません。
しかし「どんな運動をすればいいの?」「どれくらいの強さが安全なの?」と迷う方も多いはずです。
結論から言えば、有酸素運動(ウォーキングや軽めの自転車)と筋トレがおすすめです。
運動の頻度は週2〜3回程度から始め、
- 有酸素運動 → 会話が続けられるペース(Borgスケール11〜13程度) ※Borgスケールとは自覚的に運動の強さを測る指標であり、11〜13は「ややきつい」程度。
- 筋トレ → 10〜15回無理なく繰り返せる負荷
が安全で効果的です。
この記事では、運動前のチェックリスト、運動中のセルフチェック方法、有酸素運動と筋トレそれぞれの強度の目安をまとめて解説します。
チェックリスト(運動強度の判定)
有酸素運動の強度計算
運動を行う前にご自分に合った運動の強さを確認しましょう。
有酸素運動では、脈拍数がひとつの指標です。 具体的には(220−年齢)×40〜60%が安全範囲です。 初めての方や心不全の既往がある方は40%程度から始め、慣れてきたら少しずつ60%に近づけましょう。
- 40%=軽強度
- 60%=中等度
👉 例:60歳男性の場合
- 40%=64回/分
- 60%=96回/分
この範囲で運動すれば、安全性が高いと考えられます。
質問で強度を判定
下記の質問を通して、ご自分の体力に合った運動強度を選びましょう。
□ 週2回以上の運動習慣がある
□ 健康診断で大きな異常なし
□ 心不全の既往がなく、体力に自信がある
👉 2つ以上当てはまる → 中等度(60%寄り)
□ 運動習慣がほとんどない
□ 高血圧や糖尿病で治療中
□ 心不全の診断を受けている/再発予防中
□ 70歳以上で体力に不安がある
👉 ひとつでも当てはまる → 低強度(40%程度)
運動する前のセルフチェック(脈拍・STOPライン)
血圧・脈拍の確認
- 安静時の血圧が160/100mmHg以上 → 強度を落として軽めの運動に控えてください
- 安静時の血圧が180/110mmHg以上 → 運動は中止し休養をとってください
- 安静時の脈拍が40回/分以下または120回/分以上 → 運動は控えて医師に相談をしてください
セルフチェックのコツ:可能な限り毎日同じ条件(時間帯など)で測定した血圧・脈拍をメモしてください。体調の“普段”を見える化すると判断が安定します。
自覚症状の確認
- 安静時に息切れ、動悸、胸の痛み
- 強い頭痛、めまい、吐き気、冷や汗、発熱(38℃以上)
- 普段と違う強い疲労感
👉 ひとつでも当てはまれば運動は控えてください。
運動中のSTOPライン
- 血圧が運動前より収縮期+40mmHg/拡張期+20mmHg以上の上昇
- 脈拍が120〜130回/分を超えた場合や、脈が飛ぶ・乱れる感じが頻発する
- 会話ができないほどの息切れ、胸痛、動悸、ふらつき
- パルスオキシメーターでSpO₂(酸素飽和度)が90%以下
👉 これらが出たらすぐに運動を中止し安静に。必要に応じて主治医に相談してください。
有酸素運動の強度目安
- 種類:ウォーキング、自転車、エアロバイク
- 時間:1回20〜30分/日。週2〜3回から始め、可能なら週5回へ
- 強度:会話できるペース(最高心拍数の40〜60%)
- 工夫:「10分×3回」に分けても効果あり
この強度はあくまでも目安です。最初は10分の散歩から始めても大丈夫です。
臨床でも、毎日少しずつ歩ける方は再入院が少ないと感じますし、ご家族と一緒に散歩に出ると継続しやすくなります。
筋トレ(レジスタンス運動)の強度目安
- 回数と負荷:10〜15回できて「少しきつい」と感じる程度 ※専門的には最大挙上重量(1RM)の30〜50%に相当しますが、難しく考えずに「15回できてちょうどいい」程度を目安にしてください
- 例:椅子からの立ち座り、軽いスクワット、ゴムバンド運動
- 頻度:週2〜3回
- ポイント:呼吸を止めない/反動を使わない
入院前から筋トレをしていた方は、退院後の回復が早いと実感しています。 ご家族と一緒にできる簡単な運動から始めましょう。
まとめ
- 有酸素運動では「会話が続けられるペース」
- 筋トレは「10〜15回できる負荷」
- 運動前はチェックリストで強度を判定
- 運動中は脈拍・症状・STOPラインを確認
無理のない強度で、ご家族と一緒に楽しく続けることが、心不全を防ぐ最も確実な一歩です。 最後に覚えておきたいのは、「会話しながら続けられるかどうか」。これが一番わかりやすい安全のサインです。
参考文献
- 日本循環器学会・日本心不全学会.心不全治療ガイドライン(2025年改訂版).2025.
- 厚生労働省.e-ヘルスネット「身体活動・運動」.https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp
- WHO. Global recommendations on physical activity for health. Geneva: WHO; 2010.
- Piepoli MF, et al. Exercise training in heart failure: from theory to practice. Eur J Heart Fail. 2011;13(4):347–357.


コメント