心不全でなぜ減塩・水分管理が必要なのか?【理学療法士が解説】

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はじめに

心不全で入院された経験のある方は、退院指導のときに「減塩してください」「水分を控えましょう」と言われたことがあると思います。
でも、「なぜ、そこまでしないといけないのか?」「どのくらい守ればいいのか?」と疑問に感じている方も多いのではないでしょうか。

この記事では、心不全の方に減塩・水分管理が必要な理由を、消化器や腎臓との関わりも含めてわかりやすく解説します。さらに、家庭でできる具体的な減塩の工夫についてもご紹介します。


心不全には、なぜ減塩が必要なのか?

心不全とは、心臓が十分に血液を送り出せなくなり、体に水分がたまりやすくなる病気です。
塩分をとりすぎると、体は水分をため込もうとします。その結果、心臓への負担が大きくなることでむくみ・体重増加・息切れなどの症状が増悪し、再入院につながることがあります。

そこで病院では「心不全の方は1日の塩分量は6g未満にしましょう」とお話しさせて頂いています。

  • 塩分が多い → 体に水がたまる
  • 水がたまる → 足のむくみ、体重増加、呼吸苦につながる
  • 結果として → 心臓に余計な負担がかかる

つまり減塩は「心臓を守るための体の水分コントロール」につながるのです。


減塩によって得られる効果(腸や腎臓、心臓と血管との関わり)

腸との関係

心不全が悪化すると、腸にまで血液がうっ滞して「腸がむくむ」ことがあります。これを腸管浮腫といいます。
腸がむくむと栄養や薬の吸収が悪くなり、利尿薬が効きにくくなることもあります。
減塩によって体の水分貯留を防ぐことは、腸の状態を守り、薬の効きを良くすることにもつながります。

腎臓との関係

腎臓は体の水分や塩分を調整する役割を担っています。塩分が多すぎると腎臓に負担がかかり、余計に水分をため込みやすくなります。
減塩を行うことで腎臓の負担を軽くし、「水分が溜まりにくい体」を作ることができます。

心臓・血管との関係

心不全において減塩を行うことは、心臓や血管を守ることにもつながります。

心臓への負担を減らす

塩分をとりすぎると、体は余分な水分をため込みます。その結果、心臓はより強い力で血液を送り出さなければならず、心臓には強い負担がかかることになります。
この状態が続くと、心臓の筋肉はだんだん厚く硬くなり、さらに心不全が悪化してしまいます。
減塩によって体内の水分量をコントロールすることで、心臓の働きすぎを抑え、余計な負担を軽減することができます。

血管のしなやかさを保つ

塩分のとりすぎは血圧を上げるだけでなく、血管の壁にも影響を与えます。
研究では、減塩によって血圧が下がるだけでなく、血管の柔らかさ(弾力性)が改善することが確認されています。
血管がしなやかになると、血液の流れがスムーズになり、心臓が血液を送り出すときの負担も少なくなるのです。


減塩と再入院率・生活の質(QOL)の関係

「減塩すると再入院は防げるのか?」これは多くの方が気になるポイントです。

最新の研究では、厳格な減塩が死亡率や再入院率を劇的に減らす効果は示されませんでした
しかし一方で、生活の質(QOL)や症状の改善が確認されており、「息切れが減った」「むくみが軽くなった」と感じる患者さんが多かったのです。

つまり、減塩は入院をゼロにする魔法ではないけれど、毎日の生活をラクにし、結果的に再入院を減らす助けになるといえます。


心不全には、なぜ水分管理が必要なのか?

「水分は1日1.5リットルまで」と言われることがありますが、実は一律に制限する必要はありません。しかし、病状によっては制限が必要な場合もあります。

  • 最新研究では、1.5L制限と制限なしの摂取”で大きな差はなかったことが報告されています。
  • ただし、急な体重増加(2〜3日で2kg以上)や強いむくみがあるときは水分制限が必要になることがあります。

ポイントは「のどの渇きに合わせる水分をとる」、「医師の指示に合わせる」ことです。


家庭でできる減塩の工夫

「減塩=食事が味気ない」と思う方もいますが、工夫すればおいしく続けることができます。

調味料の使い方を変える

  • しょうゆやソースは「かける」より「つける」
  • 減塩しょうゆや減塩みそを活用する
  • 塩の代わりにレモン、酢、香辛料、ハーブで風味をつける

加工食品を減らす

  • ハム、ソーセージ、漬物、インスタント食品は塩分が多い
  • 「週に〇回まで」と回数を決めると続けやすい

外食・惣菜の工夫

  • ラーメンやうどんはスープを全部飲まない
  • 定食は汁物を半分残す
  • ドレッシングやタレは別添えにして、必要な分だけ使う

味覚を慣らす

  • 最初は薄く感じても、2〜3週間で慣れていきます
  • 家族みんなで取り組むと続けやすい

まとめ

心不全の方にとって、減塩と水分管理は「制限」ではなく、息切れやむくみを減らして生活を楽にするための工夫です。

  • 減塩は 1日6g未満を目標に
  • 水分は 体調と医師の指示に合わせて
  • 無理のない範囲で少しずつ工夫することが大切

「減塩をがんばること」は、再入院を減らす土台を作り、安心して生活を続けることにつながります。
楽しみをすべて奪う必要はありません。小さな工夫を積み重ねることで、体は確かに楽になります。


参考文献

  1. 日本循環器学会・日本心不全学会.2025年改訂版 心不全治療ガイドライン.2025.
  2. Ezekowitz JA, et al. SODIUM-HF Trial. Lancet. 2022;399(10333):1391-1400.
  3. Dewan P, et al. FRESH-UP Trial. Eur Heart J. 2025.
  4. 内 昌之,高橋 哲也(編).「なぜ」から導く循環器疾患のリハビリテーション-急性期から在宅まで.金原出版,2015.
  5. American Heart Association. Living with Heart Failure: Self Care. 2022.

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